離島という逆境を乗り越えて。おいしい食材を五島から全国に。HPIファーム【旅先案内人 vol.17】五島リトリート ray#3
普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。
【vol.15】から、数回に渡り、五島列島にまつわる連載を配信しております。この夏新しく開業した五島リトリート ray。五島列島の”地域の光”をご紹介していきます。
(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f ・KEIRIN HOTEL 10・五島リトリートray)
熱視線集まる、五島の「パプリカ」。
五島の魅力とは?と聞かれると、美しい海、歴史深い文化、温かな島の人・・・色々なキーワードが頭に浮かんできますが、中でも、驚きと感動が詰まっているのが「食」ではないかと感じます。島の直売所には、みずみずしい野菜やフルーツが毎日並び、スーパーで買うお魚もとっても新鮮で、身は引き締まり旨味たっぷり。島外出身の私は、「身近な食材がこんなに美味しいなんて!」と、島の食材を口にする度に五島の豊かさを噛み締めています。(農家さんにお話を聞いたところ、潮風が運ぶミネラルが素材を美味しくするのだとか…!)
そんな、食いしん坊にはたまらない地、五島列島。たくさんの農作物が育てられている中で、今、都市部のレストランやホテルのシェフからも熱い視線を注がれる食材があります。それが、五島の「パプリカ」です。
パプリカの栽培を行うHPIファームの皆さん
肉厚でジューシーな実は、噛めば噛むほどみずみずしく、苦味や青臭さが一切ありません。まるで、フルーツを思わせるような優しい甘み。私たちのホテル五島リトリート rayでも、五島のパプリカを使用しており、日々レストランのメニューで活躍してくれています。そんなパプリカの栽培に取り組んでいるのは、地元の会社『HPIファーム』。「五島パプリカのファンを増やしたい!」という想いのもと、ひたむきに野菜づくりに取り組む生産者の日常を、取材しました。
故郷のために力を尽くして。島を想い、はじめた農業。
お話を伺ったのは、HPIファームに勤める小野寺 克哲さん。小麦色に焼けた肌がよく似合い、すっかり五島ご出身の方だと思っていると、「実は、東京生まれ東京育ちなんです」と、意外な返答が。
「2021年の11月まで、親会社の(株)ディーソルに勤めていました。もともと、社長が五島の出身だったこともあり、五島でも東京でも事業を行っている会社です。昨年、定年退職を迎えたのですが、長年一緒に仕事をしてきた社長に相談し、第二の人生を五島でスタートしようと思い、移住を決意しました。」
「弊社の社長は、東京でIT企業を立ち上げたのですが、もともと社長が五島出身ということもあり、五島にも会社の拠点を設けています。ただ、その親会社も五島の拠点も、基本的にはITの事業を行っていて。農業とは関係のない領域でした。そんな中、2016年に、行政の方から、島内のワイナリーのワイン作りのために、ぶどうの生産者を探しているという相談があって。社長は、故郷のために力を尽くしたいと考えたのでしょう。全く未経験者の集まりながら、ワイナリーのための5ヘクタールの葡萄園を作ったんです。」
「それまで、島内だけでは生産力が足りず、一部のぶどうを山梨などから買ったりしていたそうです。みんな、やっぱり五島産で作りたいという思いがあったんですね。しかし、ぶどうは育つまで時間がかかるので、他の食材を育てようとはじまったのが、パプリカでした。また、島では、農業をやる人が減り、耕作放棄地が増加して山が荒れてしまっています。そんな土地を引き受け、土地を再活用して、色々な作物の栽培に取り組んでいるのもHPIファームの特徴です。」
温泉熱を活かした、サステナブルな栽培方法にチャレンジ。
通常、パプリカの収穫時期は6月~9月頃、夏の時期が旬ですが、HPIファームのパプリカは栽培するパプリカのビニールハウスの温度を暖かく保ち、1年中収穫ができるよう工夫をしています。中でも特徴的なのが、一部の畑のエリアでは、湧き出る温泉熱を活かし、ビニールハウスの室温を保っていること。通常、重油をつかって、ビニールハウスの温度調整を行うことが多いですが、自然のエネルギーを活用することで、環境に優しい形で栽培を行えます。
「4〜5年ほど前まで、日本のパプリカの約90%が韓国産、4%がニュージーランド産だったそうです。近年は、少し国産の比率が上がってきているものの、まだまだ海外産が多い現状です。温泉の熱を活かしいつでも収穫できるようにすることで、五島の美味しいパプリカが少しでも多くの食卓に届けられると良いなと思っています。」
HPIファームでは、パプリカ以外にもこの6年の間に様々な素材を育ててきました。ブロッコリー、ミニトマト、高菜、空豆、かぼちゃ、さつまいも、マンゴー、びわ・・・・。中には、うまく育たなかったものもたくさんあり、農業未経験者ばかりで行うものづくりは、毎日がトライ&エラーの繰り返しでした。時には、他の農園さんに電話でわからないことを尋ねたり、思考錯誤の積み重ねです。
「愛情かければ良いものができるから!」を合言葉にやっています、と小野寺さんははにかみながら語ってくれました。
離島という逆境を乗り越える、強い農業へ。
「最近では、ふるさと納税で毎年リピートして買ってくださるお客様も出てきています。こんな風に、しっかり産地のこと、私たちのことを知って買ってくださる方を、もっと増やしていきたいですね。特に、五島列島は離島という立地柄、もともと流通の面ではとても不利な条件なんです。輸送コストや時間、どれをとっても本土の地域に比べれば高くつきます。だからこそ、しっかりと美味しいもの、クオリティの高いものを生み出して、価値があるものにお金を払っていただく。この島ならではの作物を作り、農業を起点に島を盛り上げていきたいと考えています。」
まだまだ手探りのことも多い日々の中、しっかりと五島の農業や食の未来を見据える小野寺さん。食材が私たちの元に届くまでには、生産者の努力や知恵と工夫が、その裏には存在していることを、忘れないでいたいです。
農業法人 株式会社HPIファーム
http://www.hpi-farm.co.jp/
長崎県五島市下大津町712番地26