【登壇レポート】地域の光を灯す、温故知新のリゾート戦略|千里ライフサイエンスフォーラム2025
更新日:2025 - 12 - 26
2025年12月11日(木)、大阪・千里ライフサイエンスセンターで開催された「千里ライフサイエンスフォーラム2025」にて、弊社代表・松山知樹が「地域の光を灯す、温故知新のリゾート戦略」と題し登壇しました。本記事は、当日の講演内容をもとに、温故知新のこれまでの歩みや事業への思い、そして今後の展望についてまとめたものです。
松山)温故知新は2025年12月現在、東京を拠点に全国15カ所で11のホテルと4つのレストランを運営しています。私たちが手掛けるのは、北海道の礼文島から九州の離島まで、普段なかなか足を運ばないような「一生に一度は行ってみたい」と思わせる土地ばかりです。
そうした場所に、私たちはホテルを通じて“滞在体験の場”をつくり、その土地ならではの魅力や価値を最大限に引き出すことを目指しています。単なる宿泊施設ではなく、地域の魅力を最大限に引き出し、旅の目的地となる宿をつくる、それが私たちの根本的な哲学です。
3つの体験価値で広がるブランド
このたび施設数の増加に伴い、ホテルを「リトリートセレクション」「クラフトセレクション」「ゲートウェイセレクション」の3つのカテゴリーに分類しています。
リトリートセレクションは、空間美・食・リラクゼーションなど、非日常空間の中で心身のリトリートがかなうホテル。クラフトセレクションは、明確なテーマ性と作り手たちの情熱が息づく、唯一無二の個性派ホテル。ゲートウェイセレクションは、後継者不在の宿を引き継ぐ事業承継モデルをはじめ、地域と共に歩み、日常に寄り添うことを大切にしているホテルです。
価格帯も幅広く、リトリートは1人4万円台から、ゲートウェイは1万円台と、さまざまなニーズに応えています。

左から「リトリートセレクション」「クラフトセレクション」「ゲートウェイセレクション」
逆境から生まれた、地域再生への原点
2011年2月、温故知新を設立した直後に東日本大震災が発生し、計画していたプロジェクトはすべて白紙に。仕事がない中で取り組んだのは、被災地のホテルや旅館の再生・復興支援でした。東北各地で20件以上の再生計画に携わる中で、地域に根ざした宿の存在意義を強く実感し、これが「地域とともに歩む」という私たちの事業観の原点となりました。
その後、運営第一号となったのが愛媛県松山市の「瀬戸内リトリート青凪」。
大王製紙の別荘として安藤忠雄氏が設計した建物ですが、長く活用されずに残されていました。「壊すか、売却か、新たな価値を見出すか」という選択肢の中、私たちに運営の話が舞い込みました。
7部屋だけの小規模施設で、収益面の不安もありましたが、「この建物に新たな命を吹き込み、地域に光を灯したい」という思いが背中を押しました。結果として、青凪は唯一無二の体験価値を提供する宿として多くの注目を集め、温故知新の成長の礎となりました。

改修前(左)と改修後(右)の「瀬戸内リトリート青凪」の内観
この経験を経て、赤字寸前だった老舗旅館の立て直しや、離島での新築リゾート立ち上げ、温泉旅館の全面リノベーションなど、地域や建物の個性を最大限に生かすプロジェクトへと挑戦の幅を広げてきました。
どの案件も、単なる施設運営ではなく、「その土地ならではの価値をどう引き出し、次世代につなげるか」という視点を大切にしています。私たちのホテルは、地域の文化や歴史、そして人の思いを受け継ぎ、磨き続ける集団でありたいと考えています。

温故知新が運営する施設第一号「瀬戸内リトリート青凪」は、ミシュランガイドでも紹介されるなど、国際的にも評価されるホテルへと成長している。 ※1「ミシュランガイド」はMichelin & Cie.の登録商標です
地方消失への危機感が生んだ原動力
なぜ、ここまで地域にこだわるのか。
それには、私自身の原体験が大きく影響しています。大阪で育った私にとって、東京ばかりが栄えていく一方で、地方がどんどん錆びれていくのは、正直どこか寂しさや危機感を感じてきました。家族のルーツである福井も、時代の流れの中で人口が減り、地域の活気が失われていく様子を目の当たりにすると、何とかその魅力や文化を守り続けたいという思いが強くなります。地方が消えてしまえば、そこに根付いてきた文化や人の営みも一緒に失われてしまう。それは日本にとって大きな損失だと思っています。
だからこそ、ホテルという場を通じて、地域の魅力や価値を次の世代につなげていきたい。単なる宿泊施設ではなく、その土地ならではの文化や人の思いを体験できる場所をつくることで、訪れる人に地域の本当の魅力を伝えたいと思っています。スタッフにも、地域の人と積極的に交流しながら、新しい価値を生み出してほしいと日々伝えています。

温故知新代表・松山
共通の価値観が生むチームの力
私たちの運営方針の根底にあるのは、「人としての心構え」を重視することです。スキルや知識だけでなく、チームワークや感謝の気持ちを大切にし、全従業員が同じ価値観を共有するための『クレド』を策定しています。
例えば「ノーと言わない」「ありがとうを積極的に伝える」など、日々の行動指針を明文化し、評価や表彰制度にも反映させています。全国に散らばるスタッフ同士が一体感を持てるよう、オンライン情報共有ツールの活用や、年1回の全社員集会『okcs day』も実施しています。

温故知新の全従業員が同じ価値観を共有するための『クレド』について
地域とともに、次の時代をつくる
今後の取り組みとして、職人と出会えるホテルや、古民家を活用した分散型ホテルのプロジェクトも進行中です。例えば、富山県高岡市では、地元の仏壇職人や金属加工の技術者と連携し、宿泊者が職人と直接語り合える場を設ける計画が進んでいます。
また、空き家問題へのソリューションとして、古民家のリノベーションや廃材活用も積極的に推進しています。日本各地で増え続ける空き家を資源と捉え、地域の歴史や文化を継承しながら新たな価値を創出する取り組みです。これにより、地域の景観やコミュニティの維持にも貢献しています。
私たちは、単なる宿泊施設の運営にとどまらず、地域の人々とともに新しい時代を切り拓いていきたいと考えています。土地の個性や文化を守り、次世代へとつなげていくこと。
それが、温故知新の目指す「目的地になる宿」のあり方です。これからも、地域の光を灯し続ける存在でありたいと思っています。
<質疑応答>
Q、 さまざまなタイプのホテルを運営されていますが、どのようにお客様を集めているのですか?
A、 集客面では、OTA(オンライントラベルエージェント)を中心にしつつ、自社会員制度を強化し、リピーターを増やす取り組みも進めています。OTA経由の集客は業界全体の主流ですが、会員制度を通じてグループ内での周遊やリピート利用を促進し、代理店に頼らない自立した集客体制の構築を目指しています。
Q、 温故知新という社名にはどんな思いが込められているのですか?
A、 温故知新の社名には、「古きを訪ね、新しきを知る」という意味が込められています。新築一辺倒ではなく、既存の資源や文化を磨き上げ、地域とともに次の時代をつくる。単なるホテル運営会社ではなく、地域活性化の旗手として、これからも「目的地になる宿」をつくり続けていきます。

【イベント概要】
イベント名: 千里ライフサイエンスフォーラム2025
テーマ:地域の光を灯す、温故知新のリゾート戦略
開催日時:2025年12月11日(木)18:00〜19:00
開催場所:大阪府豊中市新千里東町1-4-2 千里ライフサイエンスセンタービル6階
対象:千里ライフサイエンスクラブ会員
主催:公益財団法人 千里ライフサイエンス振興財団 (https://www.senri-life.or.jp/)










