旅人を迎えてきた土地の記憶を継いで。ホテル ラ ヴィーニュ 白馬
更新日:2026 - 09 - 22
「白馬」と聞いて、まず思い浮かぶのは、真っ白なゲレンデかもしれません。北アルプスの麓に広がる長野県・白馬村。標高3,000m級の山々が四季ごとに見せる表情は、冬のパウダースノーから夏の登山、花咲く春や錦繍の秋まで、一年を通して旅人を惹きつけてきました。
いまや世界に知られる山岳リゾートですが、旅人を迎え始めたのは、スキー場ができるよりずっと前のことです。塩を運んだ古い街道、山を越える旅人を泊めた民家、そして世界中の視線を集めたオリンピック。かたちを変えながらも、白馬はいつの時代も「旅人を迎える場所」であり続けてきました。今回はそんな白馬の記憶をご紹介します。
世界から人が訪れる、山岳リゾート白馬の記憶
かつて白馬を通り抜けていく一本の古い街道がありました。城下町・松本と日本海側の糸魚川を結んだ「千国街道」です。山国信州にとって貴重だった塩を運んだことから「塩の道」とも呼ばれ、白馬から小谷にかけての道筋には今も石仏や古刹が残り、多くの人と物資が行き交った当時の面影を伝えています。
古くから狩猟や山菜・薬草の採集など、人々の暮らしと深く結びついてきた白馬の山々。明治時代になると、「日本アルプス」を世界に紹介した英国人宣教師ウォルター・ウェストンをはじめ、外から白馬岳を目指す登山者も訪れるようになり、山は次第に「登る場所」としても知られていきます。
彼らを山へ案内したのは、白馬・細野(現在の八方エリア)に暮らす地元の人々。案内を終えた登山者を、自分たちの家に迎え入れてもてなすこともあったそうです。そうした習わしが根づき、細野の宿は日本ではじめて宿泊業の許可を得ます。これが「民宿」の始まりとされています。

旅人とともに磨かれてきた、土地の風土
旅人をもてなす営みは、時代とともにかたちを変えていきます。1952年に村内初のスキーリフトが架けられると、白馬は一気にスキーの町へ。地元の農家も次々と旅館やホテルを開き始めます。そして1998年、長野冬季オリンピックの舞台となったことで、「HAKUBA」の名は世界へ広がりました。
現在では、上質なパウダースノーを求めて海外から長期滞在する旅行者でも賑わっています。一方で、かつて人々が歩いた塩の道や民宿文化の記憶は、いまもこの土地に残っています。
白馬村が国連世界観光機関(UNWTO)の「ベスト・ツーリズム・ビレッジ2023」に選ばれた際にも、塩の道文化に根差した開拓者精神や、おもてなしの精神の継承が評価されました。旅人を迎え、外の世界とつながることで磨かれてきた、この土地ならではの時間。その記憶が、現代にも流れています。

旅人を迎え続けてきた場に生まれた、ホテル ラ ヴィーニュ 白馬
そんな白馬の中心街・エコーランドに、2024年12月19日「ホテル ラ ヴィーニュ 白馬 by 温故知新」は開業しました。ホテル名の「ラ ヴィーニュ(la vigne)」は、フランス語で「ブドウの木」。時間をかけて根を張り実を結ぶブドウのように、私たちもこの土地に根ざし、地域とともに育っていきたい。そんな思いを名前に込めています。

客室はすべて角部屋にしつらえ、窓の外には北アルプスの山並みが広がります。館内には、長野県各地で活動する作り手たちの仕事を取り入れました。上田市を拠点にする作家・安藤萌氏の手による長野県の木から製作された作品。東御市の特産品、くるみの殻を焼いた灰をガラスに溶かし込んだ「くるみガラス」のペンダントライト 。山形村にある家具屋利右衛門氏に制作いただいた檜を使ったアメニティボックスなど。
型どおりの“土地色”をただ並べるのではなく、素材と真摯に向き合い、長野という土地に受け継がれてきた技を今に伝える作り手たちの仕事を、滞在の風景の一部として取り入れています。

冬は世界有数のパウダースノーを求めてゲレンデへ。雪が解ければ、ハイキングやトレッキング、湖や渓流でのアクティビティへ。季節が変わるたび、ここラ ヴィーニュ 白馬で過ごす時間も、その表情を変えていきます。

信州の恵みと、一期一会の記憶を一皿に
レストラン「LA VIGNE DINING FÛDO」で大切にしているのは、「今日しか味わえない一皿」。山菜やきのこ、高原野菜など、その日に届いた土地の恵みと向き合いながら、一皿を組み立てます。

そんな料理に合わせるのは、1,000本を超える厳選された日本ワイン。ワインコンシェルジュ・吉田浩之は、長年にわたり全国のワイナリーや生産者を訪ね歩き、造り手との関係を築いてきました。
日本アルプス、桔梗ヶ原、天竜川、千曲川、八ヶ岳西麓。長野県内の5つのワインバレーを中心に、土地の気候や土、造り手の考えまで含めて一本を選んでいます。自ら畑の手入れから収穫、醸造、瓶詰めまで携わるオリジナルワイン「Cuvée Yoshida」も手がけています。
ワインの造り手をホテルへ招き、料理とともにその仕事や背景に触れるディナーイベントも、季節を通して開催しています。

料理も、ワインも、館内の工芸も。私たちがここで旅人に届けたいのは、完成した「もの」だけではありません。素材を選び、手を動かし、技を磨きながら、この土地で何かを生み出している人たちの仕事です。その背景まで知ることで、この土地をもう一歩深く感じてもらえたらと考えています。
こうしてラヴィーニュ白馬は、2024年開業から現在に至るまで、その日限りの一期一会の物語を多くの旅人に届けてきたのです。
土地を知るための、小さな入り口として
かつて白馬では、山を知る人が旅人に道を教え、自らの家へと迎え入れました。山を歩くために必要だったのは、道を知る者の知恵。そして旅の途中には、土地で採れたものを使った食事や、人の手によるもてなしがありました。
時代が変わったいま、私たちにできることも、どこかそれと似ています。一皿の料理から、一杯のワインから、手に触れる工芸品から。その先にいる作り手や、素材を育んだ土地へと、興味が静かに広がっていくこと。
ただ泊まるだけでは気が付かない、この土地のもうひとつの表情に出会ってもらうこと。長く旅人を迎えてきたこの土地で、その小さな入口として、地域のショーケースとなるような場所を、私たちはこれからも紡いでいきます。





















