【五島リトリート ray】ローカルクラフトを巡る、五島列島:後編
更新日:2022 - 10 - 20
前編では、長崎で受け継がれてきたガラスづくりと、五島の教会文化のなかで育まれたステンドグラスを訪ねました。後編で出会うのは、福江島の木々を素材に、器やカトラリーを手がける木工作家「wan -made in Gotoislands-」の坂口喜人さんです。
島で育った木を使い、その一つひとつの個性を見極めながら、日々の暮らしで使われる道具へと仕立てる。その仕事をたどると、五島の自然とともにものをつくることの意味が見えてきます。
島の木から、暮らしの道具をつくる
シイやカシ、ツバキなど、多様な樹木が育つ五島列島。
福江島で、島の木々を使った器やカトラリーなどを手がけているのが、「wan -made in Gotoislands-」の坂口喜人さんです。木の表情を生かしながら、無駄を削ぎ落とした端正なフォルムに仕上げる坂口さんの作品。五島リトリート rayでも、その一部をスパやショップで取り扱っています。

「wan -made in Gotoislands-」坂口喜人さん
坂口さんが五島へUターンしたのは、約9年前。高校卒業後に島を離れ、名古屋で暮らしていましたが、再び故郷へ戻ってきました。そこで目に留まったのが、島内で行き場を失っていた間伐材でした。
「引き取り手のいない間伐材は捨てられていくしかなく、もったいない。何かに活用できないか。そんなことを考えているときに出会ったのが、フィンランドの伝統的な木製カップ『ククサ』でした」
最初は別の仕事を続けながら製作を始め、地元のマルシェへの出展やカフェでの委託販売など、少しずつ活動の場を広げていきました。その後、本格的に木工に取り組むようになり、さまざまな技法を学びながら、自身のスタイルを築いていきます。
「フィンランドのククサは白樺の瘤の部分でつくられていて、非常に野性味がある印象ですが、これをもっと普段使いしやすく、日常になじむものにしたいと思ったんです。人々の生活に欠かせない食器を、シンプルに力強く、でも、どんな場面にも合うように」
素材そのものの表情を残しながら、日常の器として使いやすい形へ整える。デザインから製作までを自身で手がける坂口さんの作品には、木の個性と、すっきりとした造形の双方が表れています。
台風のあと、工房に届く一本の電話
坂口さんが現在主に使用しているのは、島内で出る間伐材や、解体などによって行き場を失った木材です。集めた木はすぐに加工するのではなく、工房で3〜5年ほど自然乾燥させます。木の状態を見ながら製材し、そこから一つひとつの形を削り出していきます。
ククサは、角材からひとつの器を削り出して製作します。丸太の状態から自ら製材することで、木目を見極めながら、どの部分をどの器に使うのかを考えることができるといいます。活動を続けるうち、坂口さんのもとには島の人たちから木についての相談が寄せられるようになりました。

「活動を始めてしばらくすると、いろいろなところから『木を切ってほしい』と連絡をいただくようになったんです。切り方を父に教わって、自分で切りに行くようになりました。特に、台風のあとにはよく電話が鳴ります。木が倒れてしまうことも多いので、そんなときに声をかけてもらいます」
台風によって倒れた木や、管理のために伐採しなければならない木。
そのままでは使い道のなかった木材が坂口さんの工房へ運ばれ、時間をかけて乾燥され、やがて器として誰かの暮らしへ渡っていきます。坂口さんのものづくりは、作品をつくるところだけで完結しているのではなく、島の暮らしのなかで生まれる木との関わりから始まっています。
一本ごとに異なる、木の表情を見極める
「作品づくりをしていると、木も生き物なんだなと実感します。削っていると中に虫が住んでいたり、一つひとつ表情や柔らかさも異なっていて、個性もある。たまに、すごくテンションが上がる木に出会うこともあって、こんな木目がいい木が島にあったんだなと驚いたりもします」
現在、坂口さんの作品には、サクラ、タモ、シイ、カエデなど、さまざまな木が使われています。
同じ樹種でも、育った環境や切り出す場所によって木目や硬さは異なります。素材を均一に整えるのではなく、それぞれの違いを見ながら形を決めていくことも、坂口さんの仕事の一部です。作品のなかには、木とレジンを組み合わせたシリーズもあります。透明感のあるレジンと木を削り出し、五島の海を表現した作品です。
木だけに限定するのではなく、目の前にある素材から何を表現できるのか。その発想にも、坂口さん自身が見てきた五島の風景が反映されています。

自然のそばでつくるということ
wanの工房は、福江島のシンボルのひとつである鬼岳の麓にあります。
工房のある場所には上水道が通っておらず、生活用水には雨水を地下タンクにためて濾過したものを使用。雨の少ない時期には、近くの湧水を汲みに行くこともあるといいます。自然が身近にあることは、その恵みを享受することだけを意味するものではありません。
「たくさんの自然の恩恵を受けて生活していますが、生きていく上では、どうしても犠牲も出してしまいます。レジンのシリーズは売上の一部を自然保護活動団体へ寄付しています。これは私なりの自然への感謝の気持ちと、お返しだと考えています」
木を使ってものをつくることと、自然を守ること。
その二つを単純に切り分けるのではなく、自分が素材から受け取っているものと、その一方で生じる負荷の両方を意識しながら仕事を続ける。それが坂口さんなりの、島の自然との関わり方です。

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wan -made in Gotoislands-
住所:長崎県五島市下大津町1737−1
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ひとつの器から、その土地を知る
「モノにはふるさとがあり、その土地で生まれた理由がある」
坂口さんのこの言葉は、前編・後編を通して訪ねてきたつくり手たちの仕事にも通じるものがあります。長崎でガラスづくりを続ける瑠璃庵。五島の教会文化とともに歩んできた538ステンドグラス工房。そして、島の木々を暮らしの道具へと仕立てるwan。
それぞれ扱う素材も、技術も、ものづくりを始めた背景も異なります。けれど、完成したものだけを見るのではなく、その素材がどこから来たのか、誰がどのような思いでつくっているのかをたどっていくと、一つひとつのクラフトの向こうに、それぞれの土地の風景や暮らしが見えてきます。
五島リトリート rayが「local crafts」を通して届けたいのも、単に地域でつくられたものを館内に並べることではありません。滞在中に手に取った器や、ふと目にした作品を入り口に、そのつくり手や素材、さらにその先にある五島という土地へ興味が広がっていくこと。
坂口さんの器を手に取ったとき、その木がかつて島のどこかで育っていたことを知る。それだけでも、目の前に広がる五島の風景は、少し違って見えるかもしれません。
土地とつくり手、そして旅人をつなぐ接点をつくること。五島リトリート rayにある一つひとつのクラフトもまた、五島をより深く知るための、小さな入り口です。





















