ローカルクラフトを巡る、五島列島:前編
更新日:2022 - 10 - 20
旅先で出会う器や工芸品。その土地の素材や風土、受け継がれてきた技術、つくり手の営みを知ると、ひとつのものから、その土地の輪郭が見えてくることがあります。
五島リトリート rayでは、ホテルでの滞在テーマのひとつに「local crafts」を掲げ、館内の器や設えにも、長崎・五島のつくり手による仕事を取り入れています。
なぜ、この土地でものをつくるのか。どのような風景や文化が、その手しごとを育んできたのか。前編・後編の2回にわたり、五島リトリート rayとつながりのあるつくり手を訪ね、その仕事と土地との関係をたどります。
長崎に受け継がれる、ガラスの文化
海外との交流の窓口として発展してきた長崎は、ガラスと深い関わりを持つ土地でもあります。
16世紀後半、ポルトガルをはじめとする海外との交易を通じて、ガラス製品やその製法が長崎へ伝わったとされています。その後、長崎で育まれたガラスづくりの技術は各地へと伝わり、日本のガラス文化の発展につながっていきました。
そんな歴史を持つ長崎で、今もガラスと向き合う二人のつくり手を訪ねました。
1000度を超える炉と向き合う、「瑠璃庵」のガラスづくり
長崎市内に工房を構える「瑠璃庵」。
工房とショップが併設された空間の奥では、職人たちが吹きガラスの製作に取り組んでいます。ガラスを溶かす溶解炉の火は絶えず保たれ、炉内は1000度を超えます。迎えてくれたのは、ガラス職人の竹田礼人(あやと)さんです。

ガラス職人・竹田礼人さん
「うどんやそばを打つ人が、日によって素材の様子が違うと言いますが、ガラスも同じです。温度が下がると割れてしまうため、冬は炉の外に出して成形できる時間が短い。逆に夏場は外に出しておける時間は長いけれど、暑さとの戦いです。汗が一筋垂れるだけでガラスが割れてしまう。それほど繊細で、同じものはひとつもないんです」
季節や気温、その日のガラスの状態を見極めながら、限られた時間のなかで形をつくっていく。均一に見えるガラスの器の一つひとつに、職人の感覚と経験が重ねられています。

原料からつくる、瑠璃庵のガラス
瑠璃庵では、既製のガラス原料を溶かして成形するだけではなく、珪砂などの原料を調合するところからガラスづくりを行っています。
現在使用しているのは、タスマニア産の珪砂。かつて日本では、海岸などで採取された砂もガラスの原料として使われていたといいます。

「砂にいろいろな成分を入れて透明度を出しているのですが、元の砂が良くなければどうにもなりません。世界的にも、美しい砂が採れる場所はどんどん少なくなっています。地球の美しさとガラスの美しさは、いつも隣り合わせなのかもしれません」
普段、完成した器からその原料を意識する機会は多くありません。透明なガラスも、その始まりをたどれば砂という自然の素材に行き着く。竹田さんの話からは、ガラスづくりが自然環境と切り離せない営みであることが見えてきます。

「長崎でつくらにゃいかん」。この土地で続ける理由
瑠璃庵では、竹田さんと父・克人さんが親子二代でガラスづくりに携わっています。もともと建築関係の仕事をしていた克人さんは、37歳で会社を辞め、ガラスを専門的に学んだのち、長崎で工房を立ち上げました。
その背景にあったのは、ガラス文化と深い関わりを持つ長崎でありながら、当時、市内で販売されていたガラス製品の多くが海外製だったことでした。
「長崎でやるというのが、一番のこだわりであり、意味があると思っています。生まれた土地だし、歴史もあるし、ここしかない」
現在では、歴史的建造物に用いられるガラスの修復にも携わる瑠璃庵。長く同じ土地で工房を続けるなかでは、かつて修学旅行でガラスづくりを体験した子どもが教師となり、今度は自身の教え子を連れて工房を訪れたこともあったそうです。

「モノには必ず、思い入れやエピソードが宿ります。手作りでつくったモノだからこそ、大切にしようと思ってくれたり、何か感じ取ってもらえるものがあるんじゃないかと、信じています」
五島リトリート rayでも、客室やレストランで使用する一部の器やグラスを、瑠璃庵との協働で製作しています。長崎に受け継がれてきたガラスの文化と、現在の職人の感性。その双方が重なった器は、五島を訪れるゲストの滞在のなかにも息づいています。

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ガラス工房 瑠璃庵
住所:長崎県長崎市松が枝町5-11
TEL:095-827-0737
営業時間:9:00〜18:00
定休日:毎週火曜日
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五島の教会文化とともに歩む、ステンドグラス工房
長崎市から海を渡り、福江島へ。
島の北西部、三井楽町の海にほど近い場所に「538ステンドグラス工房」があります。迎えてくれたのは、濱崎由美子さんです。

「538ステンドグラス工房」濱崎由美子さん
工房の始まりは、三井楽教会のステンドグラス製作でした。
教会にはかつてステンドグラスがありましたが、建て替えによって失われていたといいます。「もう一度、教会にステンドグラスを」。そんな地域の人々の思いから、製作プロジェクトが動き始めました。

工房がスタートして約1年後、濱崎さんは生徒として活動に加わります。当時のメンバーは9名。その多くがガラス製作の経験を持たない初心者でした。大阪から講師を招き、一から技術を学びながら製作を進め、当初5年を予定していたプロジェクトは6年に及びました。
完成したステンドグラスは34枚。
「もちろん不安もありました。でも、1枚完成させるとマインドが変わりました。完成させる喜びを体感したとき、本当に疲れを忘れましたね。ああ、きれいだなあと心が動きました」
工房を立ち上げた方は、三井楽教会の作品を製作している途中で体調を崩し、完成を見届けることなく亡くなったといいます。その後、濱崎さんが中心となって工房を受け継ぎ、教会のステンドグラスの製作や修復に携わるようになりました。

光と色に、思いを託す
濱崎さんには、今も心に残る製作があります。
2011年、東日本大震災の後、岩手県に住むカトリック信者の方から一本の電話がありました。津波によって自宅や家財を失い、これからの生活を考えるなかで思い出したのが、かつて五島を訪れた際に目にした、教会のステンドグラスだったといいます。
「希望だ。これがあれば、私は生きていける、と思って……家に飾りたいんです」
依頼を受けた濱崎さんは、何度も連絡を取り合いながら、「天地創造」をテーマに4枚のステンドグラスを製作しました。マリア像や虹、鳥など、それぞれのモチーフに依頼主の思いを重ね、岩手へ送り届けました。
「ステンドグラスは、まだ文字が読めない人々が多かった時代に、色や形で思いやその意味を伝える役割を持っていました」

光を通す色や形に意味を託し、見る人へ届ける。
濱崎さんの仕事から見えてくるのは、ステンドグラスが単なる装飾ではなく、長い歴史のなかで、人の思いや物語を伝える役割を担ってきたことです。
五島で、つくり続ける
市役所に勤務しながらステンドグラスの製作を続けていた濱崎さんは、55歳で退職し、工房の仕事に専念するようになりました。現在は作品の製作や修復に加え、ステンドグラスづくりを体験できる機会も設けています。
「自分の持っているもので、何かに貢献できたらという思いはあります。これからも、つくり続けていきたいですね」

一枚のステンドグラスをきっかけに始まった地域の活動が、技術を受け継ぐ人を生み、今も五島で続いています。五島リトリート rayでは、この538ステンドグラス工房での製作体験をご案内しています。
ホテルで作品を見るだけではなく、その背景にある場所を訪れ、つくり手と言葉を交わし、自らの手でものづくりに触れる。それもまた、五島という土地を知るひとつの入り口です。

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538ステンドグラス工房
住所:長崎県五島市三井楽町濱ノ畔806-9
定休日:不定休
※五島リトリート rayでは、アクティビティとしてステンドグラス製作体験をご案内しています。ご希望の方はホテルまでお問い合わせください。
五島リトリート ray:0959-78-5551
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長崎で受け継がれてきたガラスづくりと、五島の教会文化のなかで育まれてきたステンドグラス。それぞれに異なる歴史を持ちながら、そこには、土地と関わりながら技術を受け継ぎ、今の暮らしへとつないでいく人たちの姿があります。
五島リトリート rayの「local crafts」が大切にしているのも、完成した作品の美しさだけではありません。その向こうにある土地や人、ものづくりの背景に触れることで、旅先の風景が少し違って見えてくる。館内で出会ったひとつの器やガラスが、長崎や五島をさらに知るきっかけになる。そんな出会いを、これからも滞在のなかにつくっていきたいと考えています。
▶︎後編では、五島の木々を素材にものづくりを続ける木工作家「wan -made in Gotoislands-」の坂口喜人さんを訪ねます。





















