【壱岐リトリート海里村上】壱岐の恵みを、一杯に。クラフトジンに込めた島の物語:前編
更新日:2023 - 02 - 08
麦焼酎発祥の地として、約500年にわたり蒸留文化を受け継いできた壱岐島。2020年、新型コロナウイルス感染症の拡大によって人の往来が制限され、壱岐を訪れる旅行者も大きく減少しました。
島に来てもらうことが難しいなかで、壱岐の魅力を別の形で届けることはできないか。そんな思いから着目したのが、島で受け継がれてきた壱岐焼酎でした。壱岐の蔵酒造へ共同開発を持ちかけ、島の生産者たちにも協力を仰ぎながら始まったクラフトジンづくり。
ホテル、酒蔵、生産者。それぞれの知見や技術、素材が重なって生まれたのが、壱岐焼酎をベースにした「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」です。一杯のジンができるまでには、「壱岐らしさとは何か」を考え、島にあるものを一つひとつ見つめ直していく時間がありました。
コロナ禍で考えた、壱岐の魅力を届ける方法
プロジェクトが動き始めたのは、2020年。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって観光客が大きく減少し、島の観光産業にも影響が広がっていた時期でした。観光を通して島の魅力を届けることが難しくなるなか、「壱岐に来てもらうことができない今、島の魅力を別の形で届けられないだろうか」と考えていました。

その発案に携わったのが、当時、海里村上でホテルマンとして働いていた貴島健太郎です。壱岐出身ではない貴島にとって、島で目にする風景や食材、そして壱岐焼酎との出会いは、新鮮なものだったといいます。
「壱岐にある美しい風景やおいしい食材は、本当にかけがえのないもの。皆さんの“普通”が、実はとても贅沢なんだと伝えたかったんです」
島で暮らす人にとっての日常が、島外から訪れた人の目には、この土地ならではの魅力として映る。ホテルでゲストを迎えるなかで感じてきたその価値を、旅とは違う形で島の外へ届けることはできないか。
そこで着目したのが、約500年にわたり島で受け継がれてきた「壱岐焼酎」でした。壱岐焼酎をベースに、島で育った農産物などをボタニカルとして使い、壱岐を表現するクラフトジンをつくる。その構想から、プロジェクトは動き始めました。

プロジェクトの発案に携わった貴島健太郎(当時、壱岐リトリート 海里村上)
海里村上から、壱岐の蔵酒造へ
クラフトジンづくりを実現するため、相談を持ちかけたのが、壱岐の蔵酒造です。長年、壱岐焼酎を造り続けてきた酒蔵にとって、ジンの製造は新たな挑戦でした。ホテル側が描いた構想に、壱岐の蔵酒造が焼酎造りで培ってきた蒸留技術を掛け合わせ、共同開発が始まります。
目指したのは、単に壱岐焼酎をベースにしたジンをつくることではありません。二者が考え続けたのは、「壱岐らしさを、一杯の中でどう表現するか」。その答えを探すため、島の生産者のもとへ足を運び、ジンに使う素材を探していきました。

壱岐の蔵酒造代表・石橋福太郎さん
島を巡って出会った、まだ生かせる素材
生産者を訪ねるなかで見えてきたのが、味や品質には問題がなくても、規格や流通上の理由から市場に出ることのない農産物の存在でした。
例えば、アスパラガスは出荷時に長さを揃えるため、根元の一部が切り落とされます。柑橘には、台風による傷や色づきなどを理由に規格から外れるものがあり、イチゴにも、わずかな傷によって出荷できないものがあります。柚子もまた、加工の過程で果皮を使用したあと、果肉が十分に活用されないことがありました。
食べることができ、香りや味わいもある。それでも流通には乗らない。そうした素材を、クラフトジンのボタニカルとして生かすことはできないだろうか。海里村上と壱岐の蔵酒造は、生産者や島の関係者と対話を重ねながら、素材を探していきました。
アスパラガス農家の平野さん、JA壱岐市の松嶋さんをはじめ、多くの生産者とのつながりも、その過程で生まれたものです。

JA壱岐市の松嶋さん(左)と、アスパラガス農家の平野さん(右)
第一弾のKAGURAには、イチゴ、柚子、橙、アスパラガス、モリンガ、木の芽、ニホンミツバチの蜂蜜、ウニの殻など、壱岐にあるさまざまな素材が使われました。さらに、湯本温泉の成分の結晶も、ボタニカルのひとつとして取り入れています。
ホテルが島のなかで築いてきたつながりと、酒蔵が持つ酒造りの技術。そこに生産者たちの素材が加わることで、一杯のジンを構成する要素が少しずつ揃っていきました。

ホテルと酒蔵で探した、「壱岐らしい味」
素材が揃えば完成、というわけではありません。
壱岐の蔵酒造にとって、ジン造りは初めての試みでした。製造に必要な免許の取得から始まり、ボタニカルの選定や配合、蒸留方法など、試作と検討を重ねていきます。
一方、海里村上からは、料理長やソムリエが開発に加わりました。ホテルで提供する壱岐の食材を使った料理、とりわけ和食とともに楽しめる味わいを目指し、酒蔵と調整を重ねていきました。
壱岐の蔵酒造が培ってきた蒸留の技術。生産者が育てた島の素材。そして、壱岐の食を日々ゲストへ届けるホテルの料理人やソムリエの知見。それぞれの専門性を持ち寄りながら、「壱岐らしい一杯」の輪郭を形づくっていきました。

島の外から届いた、366人の応援
開発と並行して、2021年3月にはクラウドファンディングを実施しました。
掲げたのは、壱岐の素材を使ったクラフトジンをつくり、これまで十分に活用されてこなかった農産物にも新たな使い道をつくること。
366人から支援が寄せられ、支援総額は目標額の200%を超えました。まだ完成していない一杯に島の外から多くの期待が寄せられたことは、プロジェクトを進めるうえでも大きな後押しとなりました。

「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」
そして2021年5月、「JAPANESE IKI CRAFT GIN KAGURA」が完成します。壱岐焼酎をベースに、島で育った素材をボタニカルとして取り入れ、壱岐の蔵酒造の技術によって一杯の酒へと仕上げる。
その始まりにあったのは、コロナ禍で人の往来が途絶えるなか、「壱岐の魅力を、島の外へ届ける方法はないだろうか」と考えた海里村上の発案でした。
そこに、壱岐の蔵酒造の技術、生産者が育てた素材、料理人やソムリエの知見、そして完成を待つ人たちの応援が加わっていく。酒蔵へ持ちかけたひとつの構想は、島のさまざまな人たちとの関わりを通して、「KAGURA」という一杯へと形になりました。
▶︎後編では、「KAGURA」という名前とボトルに込められた壱岐の文化、料理との組み合わせ、そして2nd edition、第三弾「SHIMA」へと続くプロジェクトのその後をたどります。




















